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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)3402号 判決

(実用新案権に基づく主位的請求について)

一 請求原因1の事実(原告らが本件実用新案権を有すること)、同2の事実(本件考案のクレームの記載内容)は当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第二、第三号証によると、請求原因3(本件考案の構成要件)、同4の事実(本件考案の課題、作用効果)を認めることができる。

二 被告がイ号、ロ号、ハ号物件を、その表示方法及び製造販売の期間につき一部争いのあることを除き、業として製造販売してきたことは当事者間に争いがない。

まず、イ号、ロ号物件の本体であることにつき争いのない検甲第一、第二号証の各一、ハ号物件のコ字状金物であることにつき争いのない検乙第二号証の一七、イ号、ロ号物件の間隔保持棒と同じ形状であることにつき争いのない検甲第一、第二号証の各二、イ号、ロ号物件の楔と同じ形状であることにつき争いのない検甲第一、第二号証の各三、被告主張の写真であることにつき争いのない検乙第一号証の一ないし一六(ロ号物件)、第二号証の一ないし一六(ハ号物件)によると、別紙(〔編註〕省略)第一ないし第三目録において、「金物1´の端部の下端隅部に膨大部4´の通過孔6´を形成し」とある部分は、いずれも、「金物1´の底片に膨大部4´の通過孔6´を形成し」と表現すべきものであることが認められる。なお、原告ら指摘のとおり、被告が答弁書添付の第二目録で「前記金物1´の端部は下端隅部に傾斜状に形成し」と表示していることは記録上明らかであるが、右は、直接、通過孔6´の形成部分を表現したものでなく、このことは、被告が前同目録において、「金物1´の底片に膨大部4´の通過孔6´を形成し」と記載して通過孔6´の形成部分に直接言及していることと、答弁書添付第一目録、被告第一準備書面添付第三目録には、原告ら主張の「金物1´の端部の下端隅部に膨大部4´の通過孔6´を形成し」との表現がなく、答弁書添付第二目録と同様の通過孔6´の形成部分に直接言及した記載のみがなされていることからも明らかである。

次に、別紙第一ないし第三目録の表示について、「案内金5´の両片の下端部の先端(もしくはその一部)を斜に切欠く」という点については、弁論の全趣旨に照らし当事者間に実質的な争いがあるわけではなく、単に、「斜に切欠く」当該形状の表現方法について意見を異にするにすぎないものと解されるところ、別紙第一ないし第三目録添付の各図面(右各図面がイ号ないしハ号物件を表示することは当事者間に争いがない。)に、前掲検甲・乙号各証を併せ検討すると、右形状は、被告が「請求原因に対する認否及び被告の主張」5(二)で主張するとおり表現するのが妥当である。

さらに、被告主張の写真であることにつき争いのない検乙第三号証の一ないし一二(ロ号物件の使用順序の写真)、第四号証の一ないし七(ハ号物件の使用順序の写真)、及び前認定事実を併せ考えると、別紙第一ないし第三目録の「金物1´の端部の下端隅部に開口する通過孔一を、間隔保持棒3の膨大部4´と型枠8´との間の部分に差し込み、膨大部4´を案内金5´´に引掛ける。」とある部分はいずれも被告主張のとおり、「型枠8´から外側に突出している間隔保持棒3´の膨大部4´を金物1´の底片に開口する通過孔6´に通して間隔保持棒3´の膨大部4´と型枠8´との間の部分に釘抜き式に打ち込み、膨大部4´に引掛ける。」と表現すべきものと認められる。なお、原告ら指摘のとおり、被告が第二準備書面(五頁二行目から四行目)で「間隔保持棒3´の膨大部4´を金物1´の底片に開口する通過孔6´に通し」と表示していることは記録上明らかであるが、同準備書面では、右部分に引続き、『さらに、金物1´を「間隔保持棒3´の膨大部4´と型枠8´との間の部分に釘抜き式に打ち込む」』と記載し、要するに、コ字状金物1´(あるいは同金物の案内金5´´)を膨大部4´に引掛けるという操作を示しているのであつて、原告らの主張するように、間隔保持棒膨大部4´を案内金5´´に引掛けることを認めたものとは解されない。

そして、イ号ないしハ号物件を右説示のとおり表示すべきものとすれば、右各物件の構成を本件考案の構成要件と関連させて分説すると、(い)´コ字状金物、楔、間隔保持棒より成る型枠締付金具であること、(ろ)´間隔保持棒の端部に膨大部が一体に形成されていること、(は)´コ字状金物の端部の縦片に間隔保持棒の膨大部より小さな幅h´を有する間隔保持棒嵌合用長孔が形成され、さらに縦片(但し、イ号物件及びハ号物件では縦片の中間部)に内幅をh´とする倒U字状の案内金を取り付けていること(以上(い)´(ろ)´については請求原因6記載のとおり)、(に)´長孔に連通してコ字状金物の底片に膨大部の通過孔が形成されていること、(ほ)´イ号物件にあつては、案内金の両片の下端部を斜に切欠いて形成し、ロ号物件にあつては、案内金の両片の下端部の先端の一部を釘抜き状に斜に切欠いてコ字状金物の下端隅部より若干突出させて形成し、ハ号物件にあつては、案内金の両片の下端部の先端の一部を斜に切欠いて形成したこと(以上「請求原因に対する認否及び被告の主張」6記載のとおり)とするのが相当である。

三 そこで、イ号ないしハ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

さきに判示したところによれば、従来の型枠締付金具はねじ込み式の間隔保持棒を使用し、そのため本体と間隔保持棒を相互に回転して取り付け、取り外しを行わなければならず、取り付け、取り外しに時間を要し、保持棒のねじ部が折損し、ねじ部にコンクリートが付着してはずれなくなる等の欠陥があつたが、本件考案は、要するに、その端部に膨大部を有しかつねじ込み式でない(ねじ溝が刻まれていない)間隔保持棒と、その幅が膨大部より小さくかつその長さが入口部から端部に向つて徐々に大きくなる長孔を有する本体とを組合わせることによつて右欠陥を克服し、ねじ締め等の操作をせずまた他の部品の着脱を行うことなしに、本体と間隔保持棒とを相対的に移動するのみで、取り付け取り外しをワンタツチで行うことができる等の作用効果を有するに至つたものである。

そして、実用新案権の権利範囲を定めるについては、出願当時の技術水準を参酌してクレームの解釈をなすべきであるとの見解が是認されることはもとよりである。しかし、クレームの解釈に当つては、右のほかにも一般に容認されている基準があるのであつて(例えば、クレームの記載を基準とすべきであること、明細書の詳細な説明を参酌すべきであること、考案者が認識した考案の範囲以上にわたつて技術的範囲を定めてはならないこと等)、技術水準を参酌すべしとの見解も、解釈基準のうちのひとつにすぎない。したがつて、実用新案権の技術的範囲、すなわち権利範囲いかんは、クレーム、詳細な説明の記載内容、考案者の認識内容等によつても決定されるのであつて、技術水準の参酌という基準だけから決定されるものではない。本件考案のクレームの解釈に当つても、右説示したところにしたがうこととするが、原告らの主張が技術水準参酌の基準のみによつて又はこれを主として解釈すべきであるとの趣旨でなされているものとすれば、右見解はもとより採用し難いといわなければならない。

まず、イ号ないしハ号物件の構成(い)´が本件考案の構成要件(い)を充足するかについて考える。

前掲甲第二、第三号証によると、本件考案における「本体」についてはその形状を特定する記載はなく、また、その形状がコ字状である金物を排除する旨の記載もないこと、成立に争いのない甲第一三号証、第一六号証の二、三によると、型枠締付金具にあつて帯状板をコ字状等に屈曲させて形成した部材を用いることは、本件考案出願当時公知の事実であつたこと、右甲号各証及び前掲検甲乙号各証によると、右部材は型枠締付金具の主要部材であることが認められるところ、一般に、物品において付属物を除いた主要な部分を「本体」と呼称している(成立に争いのない甲第一〇号証の一ないし三参照)から、本件考案における「本体」にはイ号ないしハ号物件における「コ字状金物」を含むというべきである。成立に争いのない甲第六号証、弁論の全趣旨によりその成立を認める乙第五ないし第八号証の記載も右判断を左右するものではない。

右のとおり、イ号ないしハ号物件における「コ字状金物」が本件考案における「本体」に該当するとすれば、構成要件(い)と構成(い)´との他の要件が同一であることは弁論の全趣旨に照らし当事者間に争いがないから、(い)´は(い)を充足する。なお、被告は、イ号ないしハ号物件には本件考案にみられない作用効果がある旨主張するけれども、右は、コ字状金物が本件考案の「本体」に含まれないことを前提とするものであり、この前提が認められないことは前判示のとおりであるから、採用の限りでない。

前認定の事実によれば、イ号ないしハ号物件の構成(ろ)´は本件考案の構成要件(ろ)を充足することが明らかであり、イ号ないしハ号物件の構成(は)´において、コ字状金物の端部の縦片に形成された間隔保持棒の膨大部より小さな幅h´を有する間隔保持棒嵌合用長孔と、縦片(但し、イ号物件及びハ号物件では縦片の中間部)に取り付けられた内幅をh´とする案内金との両者が一体となつて幅h´の孔が形成されているということができ、右孔は、本件考案の構成要件(は)にいうところの「長孔」に該当し、かつ、コ字状金物の端部に形成されているということができるから、構成(は)´は、構成要件(は)を充足するというべきである。

イ号ないしハ号物件の構成(に)´が本件考案の構成要件(に)を充足することも前認定の事実により明らかである。

右(に)´と(に)との対比について、被告は、本件考案では間隔保持棒挿入用長孔に連通する間隔保持棒膨大部の挿入部が本体の端部に形成されているのに対し、イ号ないしハ号物件では右膨大部の通過孔がコ字状金物の底片に形成されており、構成が異ると主張するが、右主張は採用できない。すなわち、右主張にある「挿入部が本体の端部に形成されている」とは、「本体の端部が型枠に接する面(以下便宜「端面」という)に挿入部が形成されている」との趣旨であると解されるところ、前掲甲第二、第三号証によると、本件考案の明細書のクレームにはもとより考案の詳細な説明にも、間隔保持棒膨大部の挿入部が本体の端面にのみ形成されることを示唆する記述はなく、ただ明細書の図面(第二、第三図)には、本体の端面に挿入部を設けたものが図示されているが、右は単に一実施例にすぎず、これをもつて、挿入部が端面に形成されるべきことを構成要件とするとの主張を支持する資料とすることはできないし、また、構成要件(に)において、挿入部は長孔に連通して形成されていれば必要かつ十分であり、それが端面に形成されていようと底片に形成されていようと、構成要件(に)を充足することに変わりはないのであつて、被告の右主張は失当である。なお、被告は、構成(に)´の採用によりイ号ないしハ号物件には本件考案にみられない作用効果がある旨主張するけれども、右は、挿入部が本体の底片に形成されたものが本件考案に含まれないことを前提とするものであり、この前提が認められないことは前判示のとおりであるから、採用の限りでない(但し、間隔保持棒による締付固定位置の上下調整範囲が大きいことによる作用効果がある旨の主張(請求原因に対する認否及び被告の主張7(二)(3))は除く。この点については後述する。)。

次に、イ号ないしハ号物件の構成(ほ)´が本件考案の構成要件(ほ)を充足するかについて考える。

本件考案は、間隔保持棒と長孔とを組合わせることによつて前判示の効果を達成したものであるが、本件考案の構成要件(ほ)において、長孔には入口部と端部があり、その長さは入口部から端部に向つて徐々に大きくなつていることが示されているものの、長孔の入口部及び端部の位置、これらと構成要件(に)における挿入部との関係、長孔の長さの意味内容が必ずしも明らかでなく、間隔保持棒の構成、形状をあわせ考えても、保持棒を長孔に挿入する操作方法、挿入後の型枠締付金具の締付固定方法が明らかでなく、したがつて、構成要件(ほ)の意味内容が一義的に明確となつているとはいい難いのである。

そして、前掲甲第二、第三号証によれば、明細書に記載された本件考案の詳細な説明においても、前記長孔の入口部・端部の位置、これらと挿入部との関係、長孔の長さの意味内容について、直接言及して説明することなく、ただ型枠締付金具の使用法を明細書の図面に基づいて説明した個所がある(本件考案の公報二欄三行目から一三行目まで)のみである。したがつて、長孔の入口部・端部の位置、これらと挿入部との関係、長孔の長さの意味内容は、右使用法の説明部分によつて理解することができる一方、長孔の入口部・端部の位置等を理解することによつて本件考案の型枠締付金具の使用法をよりよく理解することができるともいえるのであつて、クレーム記載の構成要件を有機的に関連づけて一個の意味あるまとまつた技術(考案)として、すなわち、前認定の課題を解決し、前認定の作用効果を奏しうる技術(考案)として理解することができるというべきであり、かくして、構成要件(ほ)の内容も一義的に明確にすることができるというべきである。

右のとおりとすれば、本件考案の詳細な説明で型枠締付金具の使用法を記載した部分は、クレームで明示されていない未開示の長孔の入口部及び端部の位置、これらと挿入部との関係、長孔の長さの意味内容を明らかにし、開示するものであり、クレームの記載と相俟つてクレームを補充し、本件考案の技術的範囲を定めているものと解すべきである。

前掲甲第二、第三号証により認められる、本件考案の詳細な説明に記載の型枠締付金具の使用法は次のとおりである。

型枠に間隔保持棒を取り付け、型枠から外側に突出している保持棒の膨大部を本体の挿入部に挿入し、本体を下方にずらすと、保持棒は、長孔の入口部から端部に向つて本体に対して相対的に移動することになり、長孔の長さが徐々に大きくなることによつて、長孔の端において本体と保持棒のストツパとの間に型枠を固く保持することになる。

右使用法の記載からすると、長孔の長さとは、端面(本体の端部が型枠に接する面)から型枠と垂直かつ反対の方向に測つたときの当該長孔部分の長さを、長孔の入口部とは右長さが最短の部分を、長孔の端部とは右入口部の反対の端であつて保持棒が本体とストツパとの間に型枠を締付固定する位置となる部分を、それぞれ意味し、また、挿入部は長孔の入口部と相接した位置にあるというべきである。

右認定、説示によれば、本件考案は、構成要件(ほ)において、右のような意味の長孔の長さを間隔保持棒の挿入部と相接する長孔の入口部において最短とし、右入口部から、その反対の端すなわち保持棒が型枠を締付固定する位置となる部分に至るまで徐々に大きくし、もつて保持棒が長孔の長さに見合うだけ徐々に引き出されつつ本体に対して相対的に移動し、入口部の反対の端において長孔の長さが保持棒の締付固定に必要となる長さ部分に合致することにより、型枠の締付固定がなされるようにしたものということができるから、構成要件(ほ)は、長孔の長さを入口部において最短とし、その反対の端に至るまで徐々に大きく形成する趣旨に理解すべきである。

そこで、イ号ないしハ号物件の構成(ほ)´を構成要件(ほ)に対比して検討するに、イ号物件にあつては案内金の両片の下端部を斜に切欠き、ロ号物件にあつては案内金の両片の下端部の先端の一部を釘抜き状に斜に切欠き、ハ号物件にあつては案内金の両片の下端部の先端の一部を斜に切欠いているところ、イ号ないしハ号物件において長孔の長さに当るものとしては、イ号物件、ハ号物件ではコ字状金物の端部の縦片が型枠に接する面から型枠に垂直にかつ型枠と反対の方向に測つたコ字状金物の縦片と案内金との長さをいうと解すべきであり、ロ号物件では案内金の型枠と平行であつてコ字状金物の縦片に当接していない縦方向の面から型枠に垂直にかつ型枠の方向に測つた案内金とコ字状金物の縦片との長さもしくは案内金のみの長さ(金物の下端隅部より突出させた部分につき)をいうと解すべきであり、イ号ないしハ号物件の長孔の長さは、斜に切欠かれた案内金の下端部の先端において最短であり、この先端から案内金の中途位置(斜に切欠かれた上端の位置)に至るまでは徐々に大きくなつているものの、同部分から案内金の上端部に至るまで一定の大きさとなつているのであつて、右長さを構成要件(ほ)にいう長孔の長さと評価しうるとしても、その長さは、構成要件(ほ)での入口部に相当する案内金の先端から、構成要件(ほ)での端部に相当する案内金の上端部に至るまで徐々に大きく形成するとの構成となつておらず、この点において構成(ほ)´は構成要件(ほ)を充足しない。

そして、右のとおり構成を異にすることによる作用効果の相違についてみるに、イ号ないしハ号物件においては、長孔の長さが一定となる案内金の前記中途位置から上端部に至るまでの間であれば、間隔保持棒がどの部分に位置してもコ字状金物と座金との間に型枠を締付固定することができ、したがつて、型枠に設けられた孔の高さにばらつきがあり、多数並置された間隔保持棒の位置に上下のくい違いが生じたとしても、縦、横の鋼管を組合わせて使用する場合(別紙第一ないし第三目録の各1図参照)にはコ字状金物の上片と底片との間において、横の鋼管のみを使用する場合(別紙第一ないし第三目録の各2図参照)にはコ字状金物の上片上において、それぞれ横の鋼管を楔との間で締付け、固定しうるよう調節できるという作用効果を有し、実用的であるということができる。一方、本件考案では、間隔保持棒が長孔の入口部から端部に至る間の中途の位置に在るときは本体とストツパとの間に型枠を締付け固定することができず、長孔の端部という狭い範囲の特定の位置でのみこれが可能であるということとなるので、多数並置された間隔保持棒の位置に上下のくい違いがある場合には、型枠締付金具により本来予定した位置で横の鋼管を楔との間で締付け、固定し得ないことが生じるのであつて、締付固定の調節可能との前記作用効果を有せず、実用的でないから、本件考案とイ号ないしハ号物件とは右の点で作用効果も異る。

以上検討したところによれば、イ号ないしハ号物件は、その構成(ほ)´が本件考案の構成要件(ほ)を充足するとはいえないので、本件考案の構成要件の一部を充足せず、したがつて、その技術的範囲に属しないというほかはない。

原告らは、イ号ないしハ号物件の構成は、本件考案の構成要件と均等であると主張するのであるが、右主張を肯認するためには、イ号ないしハ号物件の構成が本件考案の構成要件を充足していないにもかかわらずそのもたらす作用効果が構成要件所期の作用効果と同一であることがとりあえず必要であるところ、イ号ないしハ号物件が本件考案では認められない作用効果を奏するものであることは前認定のとおりであるから、原告らの右主張は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

四 そうだとすると、被告が業としてイ号ないしハ号物件を製造販売することはなんら原告らの本件実用新案権を侵害するものではないから、被告が本件実用新案権を侵害していることを前提とする原告らの請求は、爾余の点について判断するまでもなく、すべて理由がない。

(意匠権に基づく予備的請求について)

一 請求原因1(但し(四)は除く)の事実(原告山田清が本件意匠権を有すること)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第八号証によると、請求原因1(四)の事実を認めることができる。

右認定の事実に基づき本件意匠の構成を分説すると、次のとおりである。

(い) 本体たるコ字状枠体とこれに組合わせる楔部材とからなるコンクリート型枠締付金具に係る(請求原因2(い)のとおり)。

(ろ) 正面視において、コ字状枠体の端部の内側に、枠体の上腕・下腕・端部に当接して間隔保持棒の案内片が設けられ、強度補強用の棒が枠体の上腕・下腕に当接して設けられ、案内片は正方形と上下方向に細長い台形とを結びつけた形状をなし、使用状態にあつては楔部材が上下方向に枠体を貫通している。

(は) 平面視及び底面視において、枠体の上腕及び下腕に楔部材が貫通する孔が各二個ずつ設けられており、平面視における孔の方が底面視における孔よりも大きい(請求原因2(は)のとおり)。

(に) 左側面視において、枠体の端部に間隔保持棒を案内する長孔が設けられており、長孔は、小さな幅を有する細長い長円形状部分とその下部の右幅よりも大きな直径を有する正円形状部分とから形成されており、使用状態にあつては楔部材が上下方向に枠体を貫通している。

(ほ) 右側面視において、枠体は開口しており、枠体の内側に案内片及び強度補強用の棒並びに間隔保持棒を案内する長孔下部の正円形状部分の一部とがあり、使用状態にあつては楔部材が枠体を貫通している。

二 被告が業としてイ号ないしハ号物件を製造販売してきたこと、右各物件をいかに表示すべきかについては、実用新案権に基づく主位的請求において判示したとおりである。

そこで、右認定事実を基礎に前掲検甲第一・第二号証の各一、検乙第二号証の一七を参酌して被告意匠を図示すると、イ号ないしハ号物件の意匠は、順次、別紙図面(イ)ないし(ハ)のとおりであると認められる。

右に基づき被告意匠の構成を分説すると、次のとおりである。

(い)´ 本体たるコ字状金物とこれに組合わせる楔部材とから成るコンクリート型枠締付金具に係る。

(ろ)´ 正面視において、コ字状金物の端部の内側に間隔保持棒案内片が設けられ、イ号及びハ号物件においては、金物の端部の内面並びにこれに続く上腕及び下腕の各内面の一部が内側に向つて一連に降起し、金物の内側に、案内片が端部内面の隆起部分に、強度補強用の桟が上腕及び下腕の内面の右隆起部分にそれぞれ当接して設けられ、イ号物件においては、案内片は、上下方向に細長い長方形と三角形とを結びつけた形状をなし、ハ号物件においては、案内片は、上下方向に細長い長方形と台形とを結びつけた形状をなし、いずれの場合も案内片の金物の端部側の部分がその反対側の部分よりも長く、ロ号物件においては、コ字状金物の端部の下端隅部が傾斜状をなし、金物の内側に、案内片が金物の上腕・端部に、強度補強用の桟が上腕・下腕にそれぞれ当接して設けられ、案内片は、上端左隅部をわずかに切欠いた上下方向に細長い長方形と上下方向に細長い三角形とを結びつけた形状で、金物の端部側の部分がその反対側の部分より短く、その下端部が金物の下端隅部から突出し、各物件を通じ、使用状態にあつては楔が上下方向に金物を貫通している。

(は)´ 各物件を通じ、平面視及び底面視において、コ字状金物の上腕及び下腕に楔が貫通する孔が各二個ずつ設けられており、平面視における孔の方が底面視における孔より大きく、底面視において、右孔のほかに通過孔及び間隔保持棒嵌合用長孔の一部が開いており、さらに、イ号及びハ号物件においては、平面視及び底面視において、金物の上腕及び下腕の降起部分に対応するへこみがある。

(に)´ 左側面視において、各物件を通じ、間隔保持棒嵌合用長孔が右金物の端部に、その下端まで貫通して設けられており、イ号及びハ号物件においては、上腕及び下腕の中央部分が内側にへこみ、各物件を通じ、使用状態にあつては楔が上下方向に金物を貫通している。

(ほ)´ 右側面視において、各物件を通じ、コ字状金物は開口しており、金物の内側に案内金及び強度補強用の桟があり、使用状態にあつては楔が金物を貫通している。

三 右に認定したところにしたがい、被告意匠の構成(い)´ないし(ほ)´を本件意匠の(い)ないし(ほ)の構成とを比較すると、(い)´と(い)とが共通するのみで、右(ろ)´と(ろ)とは、コ字状部材の形状、案内片の形状、案内片のコ字状部材への当接の態様の形状の各点において、(は)と(は)´とは、通過孔及び長孔の一部の開口及びコ字状部材の上腕・下腕のへこみの有無の各点において、(に)´と(に)とは、長孔の形状及びコ字状部材の上腕・下腕のへこみの有無の各点において、(ほ)´と(ほ)とは、長孔下部の正円形状部分の一部の有無の点においてそれぞれ異つており、以上の構成を全体として観察し比較しても、本件意匠は、比較的に穏やかでシンプルな印象の美感を与えるのに対し、被告意匠は、鋭角的で比較的に装飾性に富んだ美感を与える点で異つている。

原告山田清は、本件意匠の基本的形状はコ字状金物部分にあり、(ろ)の構成(正面視)がもつとも人の注意を引きやすい部分であり、被告意匠はこの部分で同一であるから本件意匠に類似すると主張する。しかし、成立に争いのない甲第一三号証によると、コ字状の形状は、実公昭四一―一九五六〇(昭和四一年九月一三日公告)実用新案公報によつて公知であるから、右形状をもつて本件意匠の特徴的部分(要部)ということはできず、しかも、(ろ)´の構成と(ろ)の構成とは前認定の点において異るのであるから、右主張は採用し難いといわなければならない。

四 右に検討したとおり、被告意匠は本件意匠に類似すると認めることはできず、被告が業としてイ号ないしハ号物件を製造販売することは本件意匠権を侵害するものではないから、被告が本件意匠権を侵害していることを前提とする請求は、すべて理由がない。

(結論)

以上のとおりであるから、原告らの本件請求をいずれも失当として棄却することとする。

〔編註〕本件における請求原因は左のとおりである。

(実用新案権に基づく主位的請求について)

1 原告らの有する実用新案権

原告らは、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有する。

(一) 考案の名称 型枠締付金具

(二) 出願 昭和四二年一二月二八日(実願昭四二―一〇九一二九)

(三) 公告 昭和四七年一〇月一三日(実公昭四七―三三九五一)

(四) 登録 昭和五二年六月三〇日(第一一八一九三二号)

2 実用新案登録請求の範囲

本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(その後の補正を含む、以下「明細書」という)の実用新案登録請求の範囲(以下「クレーム」という)の記載は次のとおりである。

本体1、楔2、間隔保持棒3より成る型枠締付金具に於いて、前記間隔保持棒3の端部に膨大部4を一体に形成し、また本体1の端部に、前記膨大部4より小さな幅hを有する保持棒挿入用長孔5を直接形成し、該長孔5に連通して前記膨大部4の挿入部6を形成し、前記長孔5の長さを該長孔5の入口部から端部に向つて徐々に大きく形成したことを特徴とする型枠締付金具。

3 本件考案の構成要件

本件考案の構成要件は次のとおりである。

(い) 本体、楔、間隔保持棒より成る型枠締付金具であること。

(ろ) 間隔保持棒の端部に膨大部を一体に形成すること。

(は) 本体の端部に、間隔保持棒の膨大部より小さな幅を有する保持棒挿入用長孔を直接形成すること。

(に) 長孔に連通して間隔保持棒の膨大部の挿入部を形成すること。

(ほ) 長孔の長さを長孔の入口部から端部に向つて徐々に大きく形成すること。

4 本件考案の課題、作用効果

従来のコンクリート型枠を外側から挟圧するための型枠締付金具は、本体の孔に楔を打込んで鋼管を介して型枠を締付けるものであり、本体には相対峙する型枠の間隔を一定に保つ保持棒を取り付けているが、この間隔保持棒は、ねじ込み式であるため、本体と保持棒を相互に回転して取り付け、取り外しを行わなければならず、(イ)取り付け、取り外しに時間を要する、(ロ)間隔保持棒のねじ部が折損する、(ハ)ねじ部にコンクリートが付着してはずれなくなる等の欠点があつた。

本件考案は、かかる欠陥を是正するためのものであり、前記構成を採用することにより、ねじ締め等の操作をせず、また、他の部品の着脱を行うことなしに、本体1と間隔保持棒3とを相対的に移動するのみで、取り付け、取り外しをワンタツチで行うことができ、しかも、ねじ込み式のようにねじ部が折損したり、ねじ部にコンクリートが付着して取り外し不能になつたりすることがないという効果を有するものである。

5 被告の行為

被告は、別紙第一、第二、第三目録記載の型枠締付金具(以下順次「イ号、ロ号、八号物件」といい、これらすべてを指すときは「被告製品」という)を業として製造販売している。

6 被告製品の構成

イ号ないしハ号物件の構成を本件考案の構成要件と関連させて分説すると、次のとおりである。

(い)´ コ字状金物、楔、間隔保持棒より成る型枠締付金具であること。

(ろ)´ 間隔保持棒の端部に膨大部が一体に形成されていること。

(は)´ コ字状金物の端部の縦片に間隔保持棒の膨大部より小さな幅h´を有する間隔保持棒嵌合用長孔が形成されていること。

(に)´ 長孔に連通してコ字状金物の端部の下端隅部に間隔保持棒膨大部の通過孔が形成されていること。

(ほ)´ 長孔の長さは、入口部から端部に向つて徐々に大きく形成されていること(イ号物件にあつては、案内金の両片の下端部の先端を入口部が楔状をなすように斜に切欠いて形成し、ロ号物件にあつては、案内金の両片の下端部の先端の一部を入口部がより深く切れ込むように斜に切欠いてコ字状金物の下端隅部より若干突出させて形成し、ハ号物件にあつては、案内金の両片の下端部の先端を入口部がより深く切れ込むように斜に切欠いて形成したこと。)。

7 本件考案と被告製品の対比

(一) 本件考案のクレームの解釈について

本件考案は、従来品とは全く異る新しい技術思想により従来品の欠陥を克服した、いわゆるパイオニア発明(考案)であつて、その出願当時存在していたねじ込み式の型枠締付金具にみられる業界の一般的技術水準をはるかに超えるものであつた。

ところで、実用新案権の権利範囲を定めるについては、出願当時の技術水準を勘案してクレームの解釈がなされるべきところ、本件考案のようなパイオニア発明にあつては、出願前に多くの類似考案が存在する状態で取得された通常の実用新案権の場合に比し、その技術範囲は広いものというべきであるから、本件考案の権利範囲を定めるについては、クレームに記載された用語等を出来る限り広く解釈して、広い技術範囲に応じた保護が与えられるべきである。

(二) イ号ないしハ号物件の構成(い)´は本件考案の構成要件(い)を充足する。

本件考案における「本体」とは、型枠締付金具の主要な部分を意味し、このような「本体」には種々の形状のものがありうるところ、型枠締付金具の業界ではコ字状金物が「本体」に包含されることは自明であり、したがつて、「本体」とは、コ字状金物を包含する型枠締付金具における主要部品の上位概念である。そして、イ号ないしハ号物件における「コ字状金物」は本件考案における「本体」に該当し、前記(い)と(い)´の他の要件は同じであるから、(い)´は(い)を充足する。

(三) イ号ないしハ号物件の構成(ろ)´、(は)´が、それぞれ本件考案の構成要件(ろ)、(は)を充足することは明らかである。

(四) イ号ないしハ号物件の構成(に)´は本件考案の構成要件(に)を充足する。

本件考案では、間隔保持棒膨大部の挿入部の位置について、なんらの限定もなく、保持棒挿入用長孔に連通して設けられてさえいればよいのであるから、イ号ないしハ号物件のコ字状金物の端部の下端隅部に形成された通過孔は保持棒膨大部の挿入部に該当し、したがつて、(に)´は(に)を充足する。

(五) イ号ないしハ号物件の構成(ほ)´は本件考案の構成要件(ほ)を充足する。

イ号ないしハ号物件においては、構成(ほ)´のかつこ書部分の具体的構成によつて、(ほ)´の本文記載の構成を備えており、(ほ)´が(ほ)を充足することは明らかである。

(六) 右のとおり、イ号ないしハ号物件の構成は、本件考案の構成要件を全て充足する。

イ号ないしハ号物件は、前記構成をとることによつて、本件考案と同一の作用効果を奏するものである。

したがつて、イ号ないしハ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する。

8 均等論(仮定主張)

仮に、イ号ないしハ号物件の構成が本件考案の構成要件をそのまま充足しないとしても、イ号ないしハ号物件はその構成をとることによつて本件考案の構成要件が意図する作用効果と同一の効果を得ており、また、両者の構成は互いに置換が可能であり、かつそのように置換することは出願当時における当業者ならば、本件考案の公報の記載から当然想到しうる程度のものであることが明らかであり、両者は均等である。したがつて、イ号ないしハ号物件は本件考案の構成要件を実質上全部充足している。(中略)

(意匠権に基づく予備的請求について)

1 原告山田清の有する意匠権

原告山田清は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という。)を有する。

(一) 意匠に係る物品 コンクリート型枠締付金具

(二) 出願 昭和四四年一〇月二七日(意願昭四四―三四四九七)

(三) 登録 昭和四七年三月六日(第三四七一〇八号)

(四) 登録意匠別紙意匠公報の図に示すとおりのコンクリート型枠締付金具の形状及び模様の結合

2 本件意匠の構成

(い) 本体たるコ字状枠体とこれに組合わせる楔部材とから成るコンクリート型枠締付金具に係る。

(ろ) 正面視において、コ字状枠体の端部の内側に間隔保持棒案内片が、枠体の端部よりやや開口部寄りに強度補強用の棒が、それぞれ枠体の上下間に設けられており、使用状態にあつては楔部材が上下方向に枠体を貫通している。

(は) 平面視及び底面視において、枠体の上腕及び下腕に楔部材が貫通する孔が各二個ずつ設けられており、平面視における孔の方が底面視における孔より大きい。

(に) 左側面視において、枠体の端部に間隔保持棒を案内する孔が設けられており、使用状態にあつては、楔部材が上下方向に枠体を貫通している。

(ほ) 右側面視において、枠体は開口しており、枠体の内側に間隔保持棒の案内片及び強度補強用の棒があり、使用状態にあつては楔部材が枠体を貫通している。

3 被告の行為

被告は、前記のとおり、被告製品であるイ号ないしハ号物件を業として製造販売している。

4 本件意匠と被告製品の意匠(以下被告意匠という)との対比

(一) 本件意匠と被告意匠とを比較すると、左側面視においてイ号ないしハ号物件の間隔保持棒嵌合用長孔がコ字状金物の下端まで貫通しているとか、底面視において楔の貫通する孔だけでなく、長孔の一部が開いているとかのわずかの違いがあるほか、基本的形態において共通している。

(二) 本件意匠の基本的形状はコ字状であるから、「コ」の字で囲まれた部分が心理的に一つの連続した面としてとらえられ、かつ最も面積が大きくなるので、心理的に安定感を与え、したがつて、前記(ろ)の構成(正面視)が見る人の注意を最も引きやすいものであり、前記(に)の構成(左側面視)は、コンクリート型枠締付金具が使用、固定されたとき、コ字状枠体の端部がコンクリート型枠と接するために全く見えず、見る人の注意を引きにくい。すなわち、本件意匠において、もつとも重要な構成は、前記(ろ)の構成(正面視)であり、他の構成はこれに比し重要性が薄い。

しかるところ、本件意匠の正面視と被告意匠のそれとは同一であり、他の構成の対比をも考慮したうえ全体的に観察した場合、本件意匠と被告意匠とは酷似しているということができる。

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